「官僚のレトリック」2010年の本を2022年に読むタイムマシン的面白さ

『官僚のレトリック』原英史 新潮社

 

出版は2010年ですが・・・

2022年のいま読むと3倍面白い本です。

 

内容は、

公務員制度改革をめぐる政府と霞が関の攻防。

第一次安倍内閣(2006-2007)が着手し、民主党鳩山内閣(2009-2010)で頓挫するまでの擦った揉んだが、安倍・福田内閣で渡辺喜美行政改革担当大臣の補佐官を務めていた著者の視点で描かれています。

 

実はこれ、第二次安倍内閣が2014年に設置した「内閣人事局」の前史、エピソード・ゼロに当たるんですよ。いま思えば。

 

故・安倍晋三元首相については功罪さまざまな評価があると思います。

いずれにしても、第二次安倍内閣が数々のスキャンダルにも負けず長期安定政権となった要因の一つが、内閣人事局の存在でした。

 

省庁幹部の人事権を内閣が直接握ることによって、

よく言えば長年の官僚主導を政治主導に変えてスムーズに事が運ぶようになり、

悪く言えば官僚が安倍さんに忖度せざるを得なくなりました。

 

この本が書かれた2010年は「政治主導=善、霞が関の抵抗勢力=悪、改革を後退させた民主党政権=残念」という見方が一般的だったんでしょうが、

モリカケ、レイプ立件揉み消し、国交省統計改ざん・・・などなど負の面を知っている2022年の時点でこれを読むと、受け止め方は複雑になりますね。

 

結末を知っている立場で当時のドタバタを振り返るという、

タイムマシン的な面白さが味わえます。

 

 

ところで、

タイトルの「官僚のレトリック」とは?

レトリックとは修辞法。官僚が政治家を「騙す」ために使う言葉のトリックです。

 

たとえば、2007年1月26日、安倍総理の施政方針演説の一節。

「予算や権限を背景とした押しつけ的な斡旋による再就職を根絶」

いわゆる「天下り禁止」の文脈です。

役所が影響力を行使できる企業や団体がたくさんあって、そこに公務員OBを押し付ける形で天下りが行われているので、天下りを一切禁止しようということですね。

いいこと言ってるじゃないか、安倍さん。

 

・・・と思いきや、

官僚が書いたこの原稿にはトリックが仕掛けられていました。

「押しつけ的な斡旋を根絶」というフレーズは

〈押しつけ的だから斡旋全部を根絶〉とも

〈押しつけ的な一部の斡旋のみを根絶〉とも解釈できるんですね。

 

総理には〈斡旋全部〉と思わせて原稿を読ませ、

「総理は〈一部の斡旋〉以外は認めると表明した」と言質を取る。

アタマのいい人って、怖いですねえ(笑)

 

「修飾語は飾り言葉なのか限定なのか」という文法上の問題です。

こちらの記事も参照してください。

 

「言葉と論理のトリック集」でもあり、

「安倍長期政権のエピソード・ゼロ」でもある。

2つの意味で楽しめる本です。

 

『官僚のレトリック』原英史 新潮社

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