以前、金沢医科大学が1998年に小論文の試験で出題した「名作」をご紹介しました。
3つの仮説を実験によって検証していくという、論理クイズみたいな問題です。
今回はこの問題を、話題のChatGPTに解かせてみたいと思います。
《Contents》
1998年金沢医科大学の名作「ヒキガエル問題」
問題
ヒキガエルは産卵期になると池に向かって移動する。このときどうやって池の場所を見つけるのかについて3つの説がある。
- 池説…池が発する何らかの情報を感知して池の位置を見つけている。
- 天体説…月や星などの天体を感知して方角を決めている。
- 地理説…池までの道のりを知っていて池にたどり着く。
この3つの説のうち、どれが正しいかを調べる実験をおこなった。
【実験】
池に向かっているヒキガエルを池から10メートル手前で捕まえ、半数(対照群)はその場で180度向きを変えて放し、残りの半数(実験群)は同じ方向のまま池を10メートル通過した地点で放した。【結果】
対照群は池に向かったのに対し、実験群の動きはバラバラになった。以上の実験結果からわかることと、その理由を述べよ。
実験はこんなイメージです。
実はこの実験、とても巧妙に設計されています。
3つの説を確かめるために実験を3回やらなくても、この実験1つのカエルの挙動を見れば3つの説が一発で検証できるのです。
模範解答
この問題に対する模範解答はこうなります。
・実験1は、ヒキガエルが産卵池を見つける方法としての3つの仮説を検証するために行われた。
・放されたカエルは、池説なら向きを変えて池に向かい、天体説ならそのままの向きで歩き続け、地理説なら道筋を見失って迷うはずである。
・結果を見るとカエルはランダムに動いているので、道筋を見失ったと考えられ、地理説が正しいと証明された。
果たして、ChatGPTはこのような解答ができるのでしょうか?
ChatGPTは解けるのか?
使用ツールとプロンプト
ChatGPT(無料版)vs Bing AI(GPT-4)
今回挑戦してもらうChatGPTのバージョンはこちらです。
- ChatGPT:OpenAIのサイトで無料で使えるGPT-3.5です。検索機能はありません。
- bing AIの「チャット」:Microsoft Edgeのサイドバーに出てくるbingです。中身はGPT-4だとbing本人が答えてくれました。検索機能あります。
- bing AIの「作成」:Edgeのサイドバーのbingには「チャット」の他に「作成」という機能もあります。回答のトーン(文体)や形式(メール、ブログなど)を選べます。チャットと同様、GPT-4で検索機能もあります。
旧型で検索機能もない無料版ChatGPTが不利なように見えますが、どうでしょう?
プロンプト
プロンプト(命令文)はどれも同じものを入力しました。上で紹介した問題文そのままです。
ヒキガエルは産卵期になると池に向かって移動する。このときどうやって池の場所を見つけるのかについて3つの説がある。
1 池説…池が発する何らかの情報を感知して池の位置を見つけている。
2 天体説…月や星などの天体を感知して方角を決めている。
3 地理説…池までの道のりを知っていて池にたどり着く。
この3つの説のうち、どれが正しいかを調べる実験をおこなった。
【実験】
池に向かっているヒキガエルを池から10メートル手前で捕まえ、半数(対照群)はその場で180度向きを変えて放し、残りの半数(実験群)は同じ方向のまま池を10メートル通過した地点で放した。
【結果】
対照群は池に向かったのに対し、実験群の動きはバラバラになった。以上の実験結果からわかることと、その理由を述べよ。
これに対するGPT三兄弟の回答をそれぞれ見ていきましょう!
ChatGPT by OpenAIは意外にも正解
この実験からわかることは、ヒキガエルが産卵期に池に向かう際に、池説や天体説が正しいという可能性は低く、地理説が正しいと考えられるということです。対照群と実験群の動きが異なったことから、ヒキガエルは単純に池の位置を感知しているわけではなく、ある程度の経路を認識していることが示唆されます。
実験群が同じ方向に進んだまま10メートル通過した地点で放されたことで、彼らが目的地に到達するために必要な情報を失ったことが原因で、彼らの動きが不規則になったと考えられます。つまり、彼らが進んでいる方向を維持することができなくなり、池の位置を見つけることができなかったのです。
一方、対照群は池から10メートル手前で捕まえられたため、彼らは目的地までの経路を認識していた可能性が高く、捕獲される前に十分な情報を収集することができたと考えられます。したがって、彼らは池に向かって進むことができたということになります。
以上から、ヒキガエルが産卵期に池に向かう際には、地理説が最も妥当な説であると考えられます。
あれ?! 正解してる!
最初に池説を否定している部分なんて、ロジカルに書けています。
これで天体説の否定まで書いてくれたら完璧でした。
サイドバーbingの「作成」は誤答。でも一理ある?
トーンは「プロフェッショナル」、形式は「段落」、長さは「中」に設定しました。
この実験結果からわかることは、ヒキガエルは池説に基づいて池の場所を見つけているということである。その理由は、対照群は池の方向を変えられたにもかかわらず、再び池に向かったことから、池が発する何らかの情報を感知していると考えられるからである。一方、実験群は池を通過した後に方向感覚を失ってしまったことから、天体説や地理説ではないと考えられるからである。
あれれ? こちらは「池説」。外しちゃいましたね。
どうやら対照群の動きから「池説」と早合点してしまったようです。実験群を見なきゃいけないのに・・・
もしかしたら天体説を「GPSのように自分の座標がわかる」、地理説を「池の周囲の広い範囲を知っている」と解釈したのかもしれません。
サイドバーbingの「チャット」はカンニング?!
ヒキガエルは産卵期になると池に向かって移動します。このとき、どうやって池の場所を見つけるのかについて、3つの説があります。1 池説…池が発する何らかの情報を感知して池の位置を見つけている。2 天体説…月や星などの天体を感知して方角を決めている。3 地理説…池までの道のりを知っていて池にたどり着く。この3つの説のうち、どれが正しいかを調べる実験が行われました1。
実験では、池に向かっているヒキガエルを池から10メートル手前で捕まえ、半数(対照群)はその場で180度向きを変えて放し、残りの半数(実験群)は同じ方向のまま池を10メートル通過した地点で放しました。その結果、対照群は池に向かったのに対し、実験群の動きはバラバラになったということです1。
以上から、ヒキガエルは産卵期になると池に向かって移動しますが、その移動方法は地理説が正しいと考えられます1。
1: ヒキガエルはどうやって産卵池を見つける? - suzukieichi.com
1段落目と2段落目は、プロンプトの内容をくり返しているだけ・・・
受験生もこのような「課題文をくり返して字数稼ぎ」する答案をよく書きますよね(笑)
そして最後の2行だけがオリジナルの文。
唐突に「地理説が正しい」。
えっ? 正解だけど・・・そこにいたるロジックは?
ご丁寧に引用元のリンクがありました。よく見ると・・・
1: ヒキガエルはどうやって産卵池を見つける? - suzukieichi.com
私の元ネタの記事じゃないか!(笑)
検索機能を持たせたbing AI、推論をすっとばして「地理説」という正解を検索して答えました。
せめて、結論を検索で見つけたとしても、なぜそうなるのかというロジックは埋めてほしかったなあ。
まとめ
結果はこうなりました。
- 無料版ChatGPT:池説を論理的に否定して、地理説にたどり着いている。天体説に触れてなかったのが惜しい。
- bing「作成」:池説と誤答。対照群だけで決めつけてしまったのと、そもそも仮説の解釈を間違えていたのが原因か?
- bing「チャット」:元ネタを検索して地理説と正解したものの、なぜそうなるかというロジックは一切なし。
個人的には解釈を誤解しつつも思考プロセスを見せてくれたbing「作成」は人間っぽくて嫌いじゃないです。
問題児はbing「チャット」です。考えてないのに、わかってないのに「知ってるよ」とドヤ顔する子っていますよね。
「検索すると考える力が退化する」という教育者の危惧をAIが実証して見せた感じです。
「ビジネス国語」によって職場の諸問題を解決する研修講師。
就職試験の論文をほぼ白紙で提出し3社連続で落とされたのをきっかけに論文試験の攻略法を研究。誰でも書ける独自のメソッドを開発した結果、大手大学受験予備校の小論文講師に抜擢される。参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」はシリーズ累計25万部のベストセラーに。
その後、所属予備校が業界最大手から陥落し全国の校舎を閉鎖、自身もリストラされる怒涛の数年間を経験。意思疎通のエラーで混乱していく組織を詳細に観察し「ビジネス国語」を体系化する。独立後は社会人教育に転身し、大手企業の社員研修に多数登壇。受講者との軽妙なやり取りは「研修というより、めちゃくちゃ役に立つエンタメ」と評される。
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