1998年、金沢医科大学でこんな問題が出ました。

ヒキガエルが産卵のために池に向かうとき、

その池の場所をどうやって見つけているのかという実験レポートです。

 

まず3つの仮説が紹介されます。

1 池説(何らかの方法で池そのものを感知している)

2 地理説(池までの道筋を覚えている)

3 天体説(月や星を目印にしている)

そしていくつかの実験をします。

 

【実験1】

池に向かっているヒキガエルを捕まえて、池の反対側に放します。

こんな位置関係です。池を飛び越えてワープしてます。

このときカエルがどう動いたかという結果が表で示され、

実験はさらに続きます。

【実験2】カエルのまぶたをふさいで、元の位置に戻す。

【実験3】カエルの鼻を麻痺させて、元の位置に戻す。

 

そして問1。

「実験1は何のために行われて、結果からどんなことがわかるか」

 

普通の高校生はこう書きます。

「実験1は天体説を検証するためで・・・」

この場合、問2「実験2と実験3は何のために行われて、結果から何がわかるか」という設問でも

「実験2は池説を、実験3は地理説を・・・」と書いてしまいます。

実験1つにつき仮説1つを検証している、というわけですね。

 

 

ところが・・・

実はこの実験、とても巧妙に設計されていて、

実験1だけで3つの仮説のうち1つに絞られるようになっているんですよ。

 

池説なら、回れ右をして池に向かうはず。

天体説なら、そのまま進み池から遠ざかるはず。

地理説なら、右往左往するはず。

こういうことです↓

結果を見ると・・・放されたカエルたちはランダムに動き回っていました。

つまり道筋を見失っている!

これで地理説が証明され、池説と天体説は否定されました。

 

つまりこの問1の答案は、こう書くのが正解でした。

・実験1は、ヒキガエルが産卵池を見つける方法としての3つの仮説を検証するために行われた。
・放されたカエルは、池説なら向きを変えて池に向かい、天体説ならそのままの向きで歩き続け、地理説なら道筋を見失って迷うはずである。
・結果を見るとカエルはランダムに動いているので、道筋を見失ったと考えられ、地理説が正しいと証明された。

もちろん問2はこうです。

・実験2と実験3は、地理説の中でもカエルが道筋を視覚で覚えているのか嗅覚で覚えているのかを確かめるために行われた。
・実験2において、カエルは視覚を奪われても池に向かっている。
・実験3において、嗅覚を奪われたカエルは動きがランダムになっている。
・したがってカエルは嗅覚で道筋を覚えているといえる。

 

 

でも・・・予備校で理系のクラスでこの問題を出してみましたが、

「実験1で仮説1を検証し、実験2で仮説2を検証し、実験3で仮説3を・・・」と書いてしまう子がほとんどでした。

おそらく「正解」だけでは定員が埋まらなかったと思います。

 

すると、採点現場はどうなるか?

「不正解」の答案から「書き方がマシなもの」あるいは「英語の点数が良かった子」を選ぶしかなくなり、

出題者からすると

「せっかくクールな問題を出しても、結局凡庸な学生で埋まる」

というガッカリな結果になるわけです。

 

で、現在の金沢医科大学の問題。

「この文章を読んで、300字以内で要約しなさい」

そっちに落ち着きましたか(苦笑)

 

天才を選抜するような「超良問」は長続きしないんですよ。

福島県立医科大学、東京農工大学など、

2000年代に「超良問」を出していた大学も次々に小論文から撤退しています。

 

日本の大学が「定員制」を設けている以上、これは避けられないんですが、

それでもどこかの大学が「超良問」にチャレンジしていないか、

目を皿にして探している次第です。

 

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