「逆」を表すのは意外と難しい
論理記号の「⇔(同値)」が、国語では「対義語、対概念」を表すのはなぜか?
この謎についてお答えします。
《Contents》
文系と理系で意味が違う記号「⇔」
高い⇔低い
理想⇔現実
和風⇔洋風
国語の先生は対義語(反対語)を説明するとき、「⇔」という記号をよく使います。
ロジカルシンキングのセミナーで「論理とは2つのものの関係性」という説明をするときも、この「⇔」をよく使います。
A=B(共通点、「AとBはここが同じだよ」)
A⇔B(相違点、「AとBはここが逆だよ」)
A→B(因果関係、「Aの結果、Bになるんだよ」)
この「⇔」について、
IT関係にお勤めの方から鋭いご質問(というかご指摘)をいただきました。
それに「⇔」は論理記号では「同値」であって、相違点を表すなら「≠」では?
そうなんです。
文系では「逆」を表し、
理系では「同値」を表す。
「⇔」って不思議な記号なんですよ。
これは自然言語と純粋数学の違いによるものです。
「⇔」が逆を表すようになった理由
自然言語の「逆」を数学的に表せるか?
自然言語における「逆」を数学的に表現するのは簡単ではありません。
数学では値が1でも違えば「A≠B」。
ダイエット食品の広告で、私たちは「使用前/使用後」の写真を「対比の表現」と受け取りますが、
数学者なら被験者の体重を測って「有意差」を計算するでしょう。
数学での「相違」は「差」であって「逆」ではないのです。
(強いて言えば「プラスマイナスの符号」とか「ベクトルの方向」というのはありますが、それには後で触れます)
しかし、例えばビジネスの現場で求められる説明とは、「小さな差」ではなく「明らかに逆の点」。
「不便だった操作が、楽チンになる」
「ダサかった部屋が、オシャレになる」
「落ちこぼれが、できる社員に変わる」
これは「≠」では表せません。
「逆」というのは「人間の価値判断」が決めることなのです。
「赤」の反対は「青(信号)」「白(運動会)」「緑(補色)」「黒(収支)」といろいろ。
何が「逆」なのかは文脈で決まります。
国語の「⇔」はあくまでも便宜的なもの
というわけで、そもそも「逆」を表すのが苦手な数学の論理記号を使って自然言語の「相違点」を表そうとしたところに無理があったわけで、
ベクトルやマイナス符号を使っても、かえってわかりにくくなるだけです。
それゆえ学校の国語の授業では、しかたなく便宜的に「両矢印(↔、⇔)」を黒板に書いて「逆、対比」を説明することが多いのです。
「お互いに離れていく」みたいなイメージですからね。
さらに、パソコンではフォントによって「↔」が表示されないこともあります。
そのため、黒板やホワイトボードに手書きする先生は「↔」で逆を説明し、
パソコンを使う先生は文字化けしないように「⇔」を使うようになったわけです。
これが「⇔」で「逆」を表すようになった経緯です。
まとめ
①「⇔」は文系では「逆」、理系では「同値」を意味する。
②「逆」は人間の価値判断なので、数学の記号では表しにくい。
③「離れていくイメージ」で便宜的に用いられる「両矢印(↔、⇔)」のうち、文字化けしないのが「⇔」だった。
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シリーズ累計25万部のベストセラー参考書「何を書けばいいかわからない人のための 小論文のオキテ55」の著者。代々木ゼミナール小論文講師を経て、現在は文章力トレーニングの専門家として大手企業の社員研修に多数登壇。合同会社ロジカルライティング研究室代表。
よき