「『文章力がない』と上司によく言われるんですが、何が悪いのかわからないんです」
セミナーで若手社員の方から相談されました。
たとえば
「必要な情報が抜けている」のであれば、「これを書き足せ」と言われるでしょう。
「事実関係が間違っている」のであれば、「もう一度、調べ直せ」と言われるでしょう。
でも困るのは、漠然と「文章力がない」と言われてしまうケース。
「何となく全体的に稚拙」という印象なので、上司も具体的な指示がしにくいのです。
この「何となく稚拙」な文章になってしまう原因の半分は、
「カジュアル言葉」と「フォーマル言葉」の使い分けができていないことにあります。
「カジュアル言葉」とは、プライベートの会話やメールなどに用いられる言葉。多少あいまいであっても、国語的に間違っていても許されます。
「フォーマル言葉」とはビジネス文書や論文、新聞記事など公的な文章に用いられる言葉。こちらは「型」が決まっていて、正確さが求められます。
たとえば、「お母さん」はカジュアル言葉。
これをフォーマル言葉にすると、
自分のお母さんなら「母」。
世間一般のお母さんたちの話であれば「母親」。
学校の文脈であれば「保護者」という表現もあります。
同じように
「おじいさん」は「祖父、高齢者」。
「お金持ちと貧乏な人」は「富裕層、高所得者/貧困層、低所得者」。
「ごはん」は「食事、食生活、食糧」などなど。
「お金がない、お金が増える、お金を使う」などの「お金」は
「現金、資産、費用、支出、収入、所得、財政、財源、通貨」などなど。
フォーマル言葉に変換すると単語の数が増えますね。
そうです。カジュアル言葉は1語で何通りもの意味になるため、「あいまい」なのです。
似たようなものと区別し、厳密さを高めたのがフォーマル言葉なのです。
ただインテリぶっているわけではないのです。
たとえば
「こわれた」といっても
見た目でわかる部分なら「破損した」、
見た目は変わっていないなら「作動しない、不具合が生じる」。
「おわる、やめる」も
全ての作業が終わったなら「完了」、
不完全なのに何かの事情で作業を終えるなら「終了」。
フォーマル言葉に変換した方が、意味は正確に伝わります。
「室外機がこわれたため、13時より修理をはじめ、15時に終わった」
これでは室外機のカバーが吹っ飛んだのか電源が入らなくなったのか、直ったのか明日作業を再開するのか、わかりません。
報告書にカジュアル言葉を使ってしまうと、「書き手が知っている現場の詳細」が丸められ、読み手に伝わらなくなってしまうのです。
「室外機が作動しなくなったため、13時より修理を開始。15時に修理完了」
これならはっきりします。
ビジネス文書で上司にダメ出しされているみなさん、次は「フォーマル言葉」を意識して書いてみてください。
(おまけ)
では、「フォーマル言葉」のボキャブラリーを増やすにはどうするか?
一番のおすすめは「ニュースを耳でよく聞くこと」です。
テレビやラジオのアナウンサーは「フォーマル言葉」のプロ。
彼らの口調を「聞き流す」だけでも、「聞き覚えのあるフォーマル言葉」が蓄積されていきます。
試してみてください。
「ビジネス国語」によって職場の諸問題を解決する研修講師。
就職試験の論文をほぼ白紙で提出し3社連続で落とされたのをきっかけに論文試験の攻略法を研究。誰でも書ける独自のメソッドを開発した結果、大手大学受験予備校の小論文講師に抜擢される。参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」はシリーズ累計25万部のベストセラーに。
その後、所属予備校が業界最大手から陥落し全国の校舎を閉鎖、自身もリストラされる怒涛の数年間を経験。意思疎通のエラーで混乱していく組織を詳細に観察し「ビジネス国語」を体系化する。独立後は社会人教育に転身し、大手企業の社員研修に多数登壇。受講者との軽妙なやり取りは「研修というより、めちゃくちゃ役に立つエンタメ」と評される。
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