セミナーの後、受講者お二人から別々にほぼ同じご相談を受けました。
「ミニマル思考のルールによると、「不公平感」は気分だから「実害のないもの」として真っ先に切り捨てられる。でも職場の人間関係や人事評価では社員同士の不公平感という問題は無視できないのではないか?」
たしかに成果主義によって社員の間に昇給・昇進の差がつくと「不公平感」は生じるものです。この「不公平感」を放置しておくと、社員のモチベーションが下がったりチームワークに亀裂が入ったりと、さまざまな「目に見える問題」が発生します。
ところが、だからといって「今までの成果主義には問題があった。これからは年功序列、横並びにしよう」というと今度は成果を上げていた社員から不満が出ます。
このため成果主義か横並び主義か決めきれず、揺れてしまっている組織も多いのではないでしょうか?
この「成果主義はダメだったから横並び」という発想は「不公平感」という「気分」そのものを問題にしてしまっています。気分は人によって感じ方が違うもの。成果を上げている人にとっては成果主義こそ「頑張りが報われる『公平な制度』」です。一方、成果が出ず「不公平」を見せつけられた人の中にも、「よし、次こそ見返してやろう」と火がつく人もいるものです。
彼らにとっては「成果主義は不公平」という社員は単に「努力が足りない人」。横並び主義こそ「自分の成果が他人に奪われる『不公平』な制度」にしか見えないのです。
そこで、そもそもの「問題提起」を見直してみましょう。問題提起において重要なのが、「気分ではなく事実を語る」というルールです。「不公平感」という「気分」を「事実」に変換してみましょう。
たとえば「不公平感」によってどんな「事実」が引き起こされているか?
・不公平に不満を持った社員が年間何人離職している
・不公平感でチームワークに亀裂が入り、生産性が何パーセント落ちた
・不公平感から嫌がらせなどの問題行動に走る社員が何人いる
こうすれば、社内の誰が見ても「解決すべき問題」になります。ただ、これだけだと単なる「対症療法」で終わってしまうかもしれません。
別な「事実」の挙げ方も考えましょう。
不満を持つ社員は、どんな「事実」をもって「不公平」と呼んでいるのか?
・給与やボーナスなど収入の差がつくこと
・成果を上げた社員が高級外車や高級腕時計を見せびらかすこと
・自分も成果を上げたのに、上のポストに空きがなくて昇進できないこと
・成果を出そうにも、そもそも打席に立つチャンスが与えられていないこと
羽振りの良さを見せつけられるだけなら、それを奮起のきっかけにすることもできます。しかし「上のポストに空きがない」「打席に立たせてもらっていない」であれば下剋上のチャンスがありません。
「不公平感」という「気分」の裏にある「事実」は、こうした構造的な問題だったりするのです。
もっとも、上のポストに空きがあるかどうかというのは会社によって事情が異なります。成長発展中の企業では支店を増やしたり新部門を立ち上げたりして新たなポストが次々に作られますが、安定期に入った企業では新しいポストが増えません。
入社3年目くらいの若手社員が「あの会社に入った同級生はもう店長を任されているのに、俺はこの会社でまだ平社員……」と自分の会社に不満や不信を抱くことはよくありますが、これは「社内でポストが空く仕組み」を知らないことが原因だったりもするのです。
さて、もし「不公平感」の正体がこのような「硬直化した組織」にあった場合、「不公平感を緩和するために成果主義をやめて横並びにする」というのがベストな解決策ではないことはご理解いただけると思います。
ましてや「励ます、飲み会でガス抜きさせる、心のケアをする」なども論外ですよね。
「ポストを流動的にする、チャレンジの機会だけは全員に回す」などの制度ができれば、今までくすぶっていた社員も下剋上の野望に燃えてくれるかもしれません。
このように、問題提起を「気分」から「事実」に置き換えるだけで、解決の方向は大きく変わってくるものなのです。
「ビジネス国語」によって職場の諸問題を解決する研修講師。
就職試験の論文をほぼ白紙で提出し3社連続で落とされたのをきっかけに論文試験の攻略法を研究。誰でも書ける独自のメソッドを開発した結果、大手大学受験予備校の小論文講師に抜擢される。参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」はシリーズ累計25万部のベストセラーに。
その後、所属予備校が業界最大手から陥落し全国の校舎を閉鎖、自身もリストラされる怒涛の数年間を経験。意思疎通のエラーで混乱していく組織を詳細に観察し「ビジネス国語」を体系化する。独立後は社会人教育に転身し、大手企業の社員研修に多数登壇。受講者との軽妙なやり取りは「研修というより、めちゃくちゃ役に立つエンタメ」と評される。
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