こんなご質問をいただきました。

高校生に小論文を指導する際、解決策はどのレベルまで深めさせればいいのでしょうか?
・高校生が考えつく範囲でいいのか、志望する分野や職業で通用するレベルが必要なのか?
・実現可能なものであるべきか、原因分析との整合性を重視するのか?

正解は・・・

「実現可能性より、原因分析との整合性」です。

小論文の採点基準は「最新の知識を知っているかどうか」ではなく「論理的に思考できるかどうか」ですから。

たとえば、

問題点:村の人口が減っている
原因:村の魅力が知られていないからだ
解決策:村の魅力を観光客にPRしよう

これでは村の若者たちが都会から戻ってこないことが説明つきません。村の魅力を一番知っているはずなのに。

これでは論理的といえませんね。

問題点:村の人口が減っている
原因:村に産業や雇用がないからだ
解決策:企業を誘致できるようインフラを整備しよう

「予算的に実現不可能!」という批判もあるでしょうが、

「予算がないから不可能」と考えるか「予算をどう調達しようか」という考えるかで

大人の懐が試されるところかもしれません。

 

それに「村に企業を誘致」というのも昔からある手法です。

ぜんぜん独創的なアイデアではありませんが、原因分析とつながっているので「観光客にPR」よりはずっと説得力があります。

 

 

この「解決策が実現可能かどうか」という議論、

朝日中高生新聞の連載で私と編集部が毎回やり合っている部分なんです。

私は「既存の取り組みで不十分なんだから、新しい提言が必要」という考え方。

ところが編集部(新聞社)としては「それは非現実的だ!」と読者からクレームが来ると困るわけです。

 

で、どうするか?

最初の提案は意地でも引っ込めません(笑)

その代わり、解決策にいたるまでの説明に手を加えます。

 

先日は「高校生にアルバイトを認めるべきか否か」というテーマでした。

私が最初に書いた解答例がこちらです↓

【スッキリ答案】
家庭の経済的事情でお金を稼がなければならない学生が増えている。彼らが学業を続けるためにはアルバイトが必要である。
しかしアルバイト先の都合でテスト前でも休ませてもらえないなど、勉強に支障が出ることを学校が心配するのも理解できる。
そこで、学校内でアルバイトをさせるのはどうだろうか。学食の仕込みや事務作業の補助などに学生を雇えば、学校生活と折り合いをつけやすいと考えられる。

この解決策に物言いがつきました。「ありえない」と。

「編集部で探してみたけれど、こんな制度がある高校は見つからなかった」と。(お手数かけてすみません)

でも・・・

アメリカの大学では学内施設のスタッフや校舎の清掃を学生のバイトがやるというのはよく聞く話です。

日本でも、東洋大学のイブニングコースというのがあります。昼間は大学事務で働き、夜間の講義で学ぶという制度です。

 

ということは、「学内でバイト」というのは原理的に不可能な話ではなく、

単に高校の制度が妨げているというだけなんですね。

 

というわけで、最後の段落だけこう書き直しました。

 そこで、学校内でアルバイトをすることが考えられる。米国の大学では学内施設のスタッフや事務作業などの学生バイトがある。これを日本の高校にも取り入れれば助かる生徒も多いはずである。

これでようやく編集長からOKが出ました。

 

もっとも、これは新聞の連載なので「現実味のある解決策」というリクエストに応えたわけですが、

大学入試はあまり縛られなくていいと思います。

 

学問の最先端にいる大学教授は

「絶対無理!」という常識がひっくり返ることをよく知っています。

自分の分野で不可能なことが、別の分野で実現されているということもよくあります。

 

だから受験のための小論文指導では

実現可能かどうかより、原因分析との整合性を優先しましょう。

〈メルマガ【論文アカデミー】2021.6.28 Vol.014〉

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