そろそろ小論文の勉強にとりかかる生徒さんが増えてくる頃だと思います。
「この答案、どう指導するよ?」と困っちゃうことも多いですよね。
そんなときのヒントになりそうなことをこれから不定期に書いていこうと思います。
今日はこちらの問題。
【問題】
待機児童の増加が社会問題となる一方、保育園建設をめぐり近隣住民の間で反対論が出るなど課題が多く残されている。このような現状に対し行政はどうするべきか、あなたの考えを述べなさい。
これに対し次のような答案が出されたら、どうしましょうか?
【モヤモヤ答案】
(問題提起)保育園建設をめぐり、近隣住民の間で反対論が出るなど課題が多く残されている。
(原因分析)反対論が出る要因は、子どもの声がうるさいことと、送迎などで車や人が増えてしまうことであろう。
(解決策)そこで、徒歩10分圏内に少人数の子どもを預かることができる保育園を複数個作るという案はどうだろうか。これなら子どもの外遊びを地域の公園で行うことができ、送迎の車も必要ないと考えられる。
解決策の良し悪しは保留にしましょう。何事も本当に効果があるかどうかは検証してみないとわからないからです。
今回は「問題提起→原因分析」の内容に焦点を当てます。
この部分、「わかりきったことを書いている」という感じがしませんか?
間違ってはいないんだけど、嘘ではないんだけど、ちょっと薄い。
第一段落の(問題提起)が、設問のくり返しになっているんですね。
文章というのは「新しい情報」を含まないと意味がありません。新聞記事のみならず小論文の答案も同じです。
ここで薄いこと書いてしまうと・・・ボタンの掛け違いのように次の段落もズレていきます。
第二段落の(原因分析)は「なぜ反対論が出るのか?」「子どもの声がうるさく、車も増えるから」という内容ですが・・・
これは「反対論が出る理由」でしょうか?
それとも「反対論の内容」でしょうか?
私だったら「子どもの声と送迎の車」は反対論の内容として第一段落に書きますね。
そして第二段落(原因分析)は
「なぜ保育園の音と車には強く反発したくなるのか?」
子どもの声なんて公園でも聞こえますし、スーパーができれば車も増えますからね。
なぜ保育園になるとこんなに文句が出るのか?
こういうときは、逆を考えましょう。
保育園があると喜ぶのは誰か? 子育てしている親です。
保育園を嫌うのは誰か? 子育てから離れている人、特に中高年の世代です。
【スッキリ答案】
(問題提起)保育園のニーズが高まっているのに、一部の住民からは「子どもの声がうるさい」「送迎の車が増える」という反対論が出ている。
(原因分析)保育園に反対するのは子育てから離れた中高年の世代が多いと考えられる。自分たちには必要ない上に、小さい子のいない静かな環境に慣れているからである。
(解決策)※ここからはいくつかの案があり得ますね。
解決策1 高齢者が子どもたちと触れ合える場を併設し、地域住民も子育て環境に巻き込んでしまう。
解決策2 高齢者の多い地域は避け、子育て世帯の多い地域を選んで保育園を作る。
解決策3 駅など親の通勤ポイントで子どもを預かり、郊外の保育園に送迎バスを出す(千葉県流山市方式)。
反対論を真に受けると、「音を抑えましょう、車を減らしましょう」という対応になって、保育園側が我慢することになります。
でも、「怒っている人の言葉」と「怒っている本当の理由」は別であることが多いものです。
怒っている人の本音、ニーズを考えれば、新しい提案ができて膠着状態を破ることができるかもしれません。
〈メルマガ【論文アカデミー】2021.5.24 Vol.009〉

合同会社ロジカルライティング研究室 代表
ベストセラー参考書「小論文のオキテ55」シリーズ著者
就職試験の論文をほぼ白紙で提出し3社連続で落とされた敗北感をきっかけに論文試験の攻略法を研究。誰でも書ける独自のメソッドを開発した結果、大手大学受験予備校の小論文講師に抜擢され、NHKの教育バラエティ「テストの花道」にも出演。参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」はシリーズ累計25万部のベストセラーとなる。
現在は社会人教育に転身し、製造、IT、建設、エネルギー業界を中心に大手企業60社以上の社員教育に携わる。「受講した翌日、契約が取れた」「険悪だったリームの雰囲気が変わった」など即効性のあるノウハウが支持される。
「世のつまらねえ研修を撲滅し、楽しく学べて役に立つ魔法に変える」がモットー。