同業者と話していると、
「居眠りしている受講者をどうするか」
という話題になることがよくあります。
優しく起こす、無視する、怒鳴りつける、と講師によって対処はさまざまなのですが、
(「愛のムチで退室させたらネットに悪口書かれて炎上した」という人も!)
私のセミナーや研修では、
最初から居眠りできない仕掛けをいくつも施すんです(笑)
代ゼミ時代、底辺校への講師派遣という
武者修行だか罰ゲームだかわからない仕事がありまして、
「いちばん手に負えない学校には鈴木鋭智を派遣する」という
妙なポジションだったおかげで、ずいぶん鍛えられました。
地方のいわゆるFランク大学でのことです。
「ある講師が生徒にブチ切れて辞めてしまったので、明日から代わりに行ってほしい」
という、穏やかではない案件でした。
聞くと、講義が始まっても
おしゃべりをやめない、携帯電話が鳴る、それに普通に出て話し始める、教室を勝手に出入りする、いびきをかいて寝ている・・・・
おお、日本の大学もついにそこまで来たのか! 怖ろしや!
ところが、
行ってみたら
事情がわかりました。
教室の半分が
中国人の留学生だったんです。
生徒が集まらず大幅に定員割れしているため、中国人留学生で埋めていたんです。
地方のFランク大学にはよくある光景です。
で、これまで使っていたテキストは
小論文とはいかなるものか的な堅苦しい理論と
基礎力つけましょう的な意味での現代文の読解問題。
「君たち、このテキスト読めたの?」
「ゼンゼンワカラナイ」
「前回の講義はどこまで進んだの?」
「ゼンゼンワカラナイ」
あちゃー、これは授業が成立するわけがない。
Fランクだからではなく、中国人の国民性の問題でもなく、
単に「意味のわからない授業に耐えられなかった」だけだったんです。
「はい、もうこのテキストは閉じて。
みんな授業でレポートっての書くようになるでしょ?
誰でもサクッと書ける方法を教えるから、まず全員座ってくれる?」
まずは前回までの意味不明な時間じゃないぞ、ということを打ち出します。
「文章というと、起承転結って教えられることあるけど、あれは嘘だからね。
そもそも起承転結って漢詩の形式で・・・
あ、君たちの方が詳しいんじゃない?
起承転結、わかる?」
「(お互いゴニョゴニョ話して)ワカリマセン」
「漢詩はわかるよね? カ・ン・シ」
「(ゴニョゴニョゴニョ)ワカリマセン」
「え、ウソ? あれだよ、しゅんみんあかつきをおぼえず」
「???」
そうか、日本語で読んでも伝わらないのか。
そこで黒板に書きました。「春眠不覚暁・・・」
「おーーーーーーー!!!!」
まさか日本人が中国の古典を「書ける」とは思っていなかったようで。
「これ中国語で読むとどうなるの?」
「チュンミン プージュエシャオ」
「おーーーーーーー!!!!」
今度はうしろに座っていた日本人の学生たちがどよめきました。
これで場の支配はオッケーです。
中国人留学生と日本人学生の壁もなくなりました。
春眠暁を覚えず。
この一行のおかげで、居眠りする学生は一人もいませんでした。
代ゼミ時代にこんな武者修行をしてきたので、
セミナー会場で最初から雰囲気悪かったりすると
「これをどう攻略しようか」と
むしろテンション上がってしまうんです。
「ビジネス国語」によって職場の諸問題を解決する研修講師。
就職試験の論文をほぼ白紙で提出し3社連続で落とされたのをきっかけに論文試験の攻略法を研究。誰でも書ける独自のメソッドを開発した結果、大手大学受験予備校の小論文講師に抜擢される。参考書「何を書けばいいかわからない人のための小論文のオキテ55」はシリーズ累計25万部のベストセラーに。
その後、所属予備校が業界最大手から陥落し全国の校舎を閉鎖、自身もリストラされる怒涛の数年間を経験。意思疎通のエラーで混乱していく組織を詳細に観察し「ビジネス国語」を体系化する。独立後は社会人教育に転身し、大手企業の社員研修に多数登壇。受講者との軽妙なやり取りは「研修というより、めちゃくちゃ役に立つエンタメ」と評される。
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