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職業柄、他人の喧嘩やトラブルがすべて「言葉の行き違い」に見えてしまいます。

大人でも子どもでも、意見や言動がぶつかりあうときは片方が「バカだから」「悪いヤツだから」だとは限りません。

わからず屋にも五分の理。

どちらも「正しいこと」を考えているのに、伝え方にズレがあるために大騒ぎになってしまうケースは少なくありません。

 

 

たとえば、フリーアナウンサー長谷川豊氏のブログ炎上&全番組降板の騒ぎ。

 

 

ここでは長谷川氏の提言そのものへの賛否とか長谷川氏自身への好き嫌いとかは一旦忘れてください。

単純に文法の話をします。

 

問題となったブログの元のタイトルがこちら。

「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」

 

たしかに「殺せ!」というのは非常に強い言葉で、目を引きます。

しかし「保育園落ちた、日本死ね」のように極端な表現で注目を集め、賛否両論の議論を巻き起こすというのは一つの手法として存在します。さほど珍しいものではありません。

それなのに今回に限って「世の中全員が敵」になってしまったのはなぜでしょう?

 

実は文法的に見ると、このタイトルが炎上した本当の原因は「殺せ!」の部分ではありません。

「自業自得の人工透析患者」の部分です。

 

「自業自得の」は修飾語です。

修飾語は小学校や中学校では「飾り言葉」と教えられることもあるため「あってもなくても変わらない、ただの飾り」と覚えている人も多いでしょう。

高校では「五文型」のところで「S(主語)、V(動詞)、O(目的語)、C(補語)」ばかり教えられるため、M(修飾語)を見つけると「ノイズ」としてバッサリ無視する生徒もいます。

しかし、修飾語の役割は「飾り」だけではありません。

「限定」という用法もあるのです。

 

たとえば「新しいお母さん」というときは、いまのお母さんと前のお母さんを区別し、限定しています。

これが「優しいお母さん」だったら、優しくない方のお母さんと区別しているとは普通考えません。お母さんはただ一人で、その人の様子を補足説明しているわけです。これが「飾り言葉」。

 

「ギザギザハートの子守唄」はギザギザではない子守唄と区別していますが、

「風の谷のナウシカ」はあちこちに住むナウシカさんと区別しているわけではありません。

 

修飾語には「ただの飾り」と「限定、区別」という2つの用法があるのです。

どちらの用法なのかは機械的に判別できるものではなく、読み手のとらえ方次第です。

(一夫多妻制の国では「優しいお母さん」が「キツイ方のお母さん」との区別として用いられるかもしれませんし、「風の谷の」が飾りだとわかるのも「ナウシカ」が王女の個人名だということを多くの人が知っているからです)

 

 

さて、ここで長谷川氏のブログの話に戻ると、

「自業自得の人工透析患者」は2通りの解釈があり得ます。

1 人工透析患者のうち、一部の自業自得の人たち(限定、区別)

2 人工透析患者はみんな自業自得である(修飾)

 

ブログ記事の内容を読めば前者「人工透析患者のうち、一部の自業自得の人たち」を意図していたことはわかりますが、

タイトルだけを見ると後者「人工透析患者はみんな自業自得である」とも読めてしまうのです。

文法的にはどちらの解釈もあり得るのです。

 

一部の「悪い患者」を区別して問題提起するはずが、

全国の患者全員を敵に回してしまったわけです。

全腎協としても「患者全員を非難している」と解釈可能なタイトルをネット上に放置するわけにはいかないでしょう。

それに深刻な病気に苦しんでいる人ほど、タイトルで傷ついてしまったら本文まで読む気にはなりません。「ちゃんと読んでから批判しろ」というわけにもいかないのです。

 

 

後日、長谷川氏のブログはこの記事のタイトルを変更しました。

「医者の言うことを何年も無視し続けて自業自得で人工透析になった患者の費用まで全額国負担でなければいけないのか?今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」

これなら「限定、区別」であることがはっきりしますね。時すでに遅しですが。

 

 

この「修飾語の2つの用法」、日本の学校では体系的に教えてはくれません。

英語の時間に「関係代名詞の制限用法」として触れることはあっても

国語の時間に教わることはまずありません。

 

こういった学校の国語教育の穴を埋め、

職場のさまざまなトラブルを「言葉の行き違い」という視点から解決する。

これも私の仕事です。

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鈴木鋭智(Eichi Suzuki)

「『考える』のではなく『捨てる』“超”ロジカルシンキング」を得意とする企業研修、ビジネスセミナー講師。株式会社キャリア・サポート・セミナー顧問。代々木ゼミナール講師時代、小論文を「文章表現ではなく問題解決の科目」と再定義することにより合格率を倍増。参考書『何を書けばいいかわからない人のための 小論文のオキテ55』はシリーズ累計14万部を超えるヒットとなり、NHK Eテレ「テストの花道」はじめテレビ、雑誌でも活躍する。ビジネスの現場にも即応用できる問題解決メソッドとして、SMBCビジネスセミナーへの登壇を機に社会人教育に転身。満員御礼を連発するセミナーの内容をまとめたビジネス書『ミニマル思考 世界一単純な問題解決のルール』は台湾、韓国でも翻訳出版される。1969年、青森県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了(認知心理学専攻)。